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散らかった机の上
ライトファンタジー小説になるといいなのネタ帳&落書き帳
Admin / Write
2024/05/19 (Sun) 04:14
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2010/04/25 (Sun) 18:17
(4)夜分の来客

そろ~っとリームが雑貨屋の扉をあけると、ティナはカウンターの椅子に腰掛けて本を読んでいた。リームに気がつくと、いつも通りのけろっとした微笑みを返してくる。リームは自分が動揺して見えないか心配だった。
「リーム、どこまで買い物に行ってたの? 随分遅かったじゃない」
「ご、ごめんなさい……ちょっと、友達と話しこんじゃって」
「いや、別に急ぎの買い物じゃないからいいんだけど。なんでそんなに縮こまってるの? 怒られると思った?」
「え、えっと、うん、やっぱり遅刻は良くないし」
「さすが神殿育ちだと厳しく育てられてるのね~」
「はい……それじゃ、これ台所に置いてきますっ」
自分でもひきつっているのが分かる笑顔で言うと、リームは荷物を裏手の台所へと置きに行った。ティナから見えない位置で、ちらりとブレスレットを確認する。特に何の変化もない。一体何を調べる魔法具なのだろう。
リームが店内に戻ると、ティナはいつも通りリームに店番を任せて二階にあがっていった。ほっと息をつくリーム。早くこんな状況から抜け出したかった。

もう夕方に近い時間になっていたので、ほどなく閉店の時間となり、ティナも二階から降りてきて夕食の準備を始めた。用意された食事は、予想通りの鶏肉のクリーム煮と、豆とタッタ菜のサラダ、ライ麦パンだ。
いつも通りカウンターに並んで夕食を食べながら、それとなくティナの様子をうかがっているのだが、今のところ何か気づいている様子はなかった。ブレスレットの話題にもなったが、友達とおそろいで買ったと言ったらすぐに納得したようだ。少なくともリームにはそう見えた。
夕食を半分ほど食べ終えた頃、トントンと店の扉を叩く音が聞こえた。もちろん表には閉店の看板を出してあり、ただでさえ訪ねる者の少ない店なのだ、こんな時間の来客はリームは初めてだった。
「はい、どちらさまでしょう?」
ティナが扉を開けるとそこには、黒いローブを着た三十代の黒髪の男性が、葡萄酒の瓶と食材の入ったカゴを持ち、とってつけたような満面の笑みで立っていた。
「やあ、ティナ・ライヴァート殿。美味しい葡萄酒が手に入ったので一杯どうですか?」
「ラングリー! どういう風のふきまわし?」
「ええっ、オジサンですか!? なんの用なんですか? 用があってもなくても帰ってください!」
来客が宮廷魔法士ラングリーだと分かった瞬間、冷たく言い放つリームに、当のラングリーは芝居がかったため息をついた。その様子は相変わらずどこか楽しそうで、リームはそれをバカにされているように感じるのだった。
「おいおい、それはないだろう。ちゃんとリームのためにジュースも持ってきたんだぞ。フローラとばかりお茶してるんだから、たまにはお父さんとも付き合ってくれたっていいだろう」
「ゼ・ッ・タ・イ・に、嫌っ!!! 私にお父さんなんていなーいっ!!」
「ふぅ、難しい年頃だよなぁ。で、入れていただけますね? ティナ殿」
「ん。まぁ、とりあえずどうぞ」
ティナが下がってラングリーを招き入れると、リームはえーっと不満の声をあげた。食事中の皿を持って、ずりずりっと椅子と一緒に少し後ずさり、ラングリーに拒否の意志を示す。カウンターまで進んできたラングリーは楽しげな表情でそんなリームを見やり、葡萄酒のビンと食材のカゴをカウンターの上に置くと、ぐるっと雑貨屋の店内を見回してつぶやいた。
「ふぅん、かなり古い形式の結界だな。下手に小細工してない分、無難ではあるか」
ティナは再びカウンターの椅子に戻り、ラングリーの持ってきたカゴの中身をチェックしながら言う。
「もしかして、結界が張ってあったから様子を見に来たの? 随分暇なのねぇ」
「王妃様がいる以上、宮廷魔法士なんて半分趣味のようなものですよ。もちろん、リームの顔を見に来たって理由もあるがな」
にっこり笑ってリームを見るラングリー。リームはつんとそっぽを向いたままだ。と、ラングリーの視線がリームの皿を持つ左手首に止まる。ラングリーは笑顔から怪訝そうな表情に一転した。
「……? なにか発動してる……か? こっちは結界と違ってかなり手の込んだ細工ですね、ティナ殿」
その言葉にティナはきょとんと小首をかしげ、リームははっと息をのんでブレスレットを手で覆った。
「え? 何? そのブレスレットがどうかしたの?」
「ん? ティナ殿が作った魔法具ではないのですか?」
二人の視線が、リームに重なる。蒼白な表情で凍りついたリームは、急にぽろっと大粒の涙をこぼした。
「ど、どうしたのっ、リーム!?」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!! ティナのためでもあるって、思ったんです!!」
「おいおい、どういうことだ?」
ラングリーは(何故持っているのか)女物の柔らかなハンカチを取り出し、リームに差し出しながらリームが手に持つ料理を受け取った。リームはひっくひっくとしゃくりをあげながらハンカチを受け取ると、ぐしぐしと目元を拭く。そして、ブレスレットを外し、カウンターの上に置いた。
「ひっく……『青』の人から、渡されたんです。ティナの調査をするための、魔法具みたいです……」
「なるほどね。様子がおかしかったのは、そのせいだったの」
決死の告白だったが、ティナの口調は信じられないほど軽いものだった。なーんだ、そうだったんだー、とでもいうような感じであった。
「き、気づいて、たんですか……っ?」
「んー、実はカレシでもできて隠してるのかなーと思ってた。あははっ、とんだ見当違いだったわねっ」
「……怒って、ないですか? ティナの嫌いな『青』に協力して……ティナを騙すようなまねをして」
目を赤くしながら言うリームに、ティナは笑って答える。
「怒るはずないじゃない。あこがれの『青』から頼まれて、悩んでくれただけで嬉しいよ。ありがとう」
ティナは私が悩んで苦しかったこと、分かってくれるんだ。そう思うと、リームは再び涙が出てきた。
ティナはそんなリームの頭をよしよしとなでる。姉妹というよりは母娘のようだった。
「話は大体分かったが……今の状況向こうに筒抜けだぞ? どうする?」
いつのまにかカウンターに置かれたブレスレットを手に取り、じっくり観察していたラングリーが言った。ティナは『青』のふたりのことを思い出したのか、面倒くさそうな表情をする。
「状況って、何が伝わってるの?」
「そうだな……ちょっと待っていただけますか。今、開いてみましょう。фБлбζ=θБл・фбζθ・・・・・」
ラングリーが流れるように呪文を紡ぐと、ブレスレットを中心に光の魔法陣が展開された。いくつもの魔法陣が歯車のように重なり合い、何千もの魔法文字が空中に連なる。ラングリーの唱える呪文に呼応して、その文字は刻々と変化していくようだった。
「……魔力の流れや使われた魔法の詳細、時空のひずみが特に目標とされてるな。実際の音声なんかも一応集めているようだが、副次的なものだろう。……おっと」
突然、展開されていた魔法陣が端から順に消えていった。ただのブレスレットに戻った魔法具をカウンターに戻し、ラングリー半分笑いながらティナに言う。
「むこうにバレました。たぶん、ここに来ますよ。どうします?」
「ええっ!? ちょっと待ちなさいよ。どーしてくれるのっ?」
詰め寄るティナに、ラングリーは両手をあげた。
「いや、俺がどうこうする問題じゃないと思うんですがね。ティナ殿はどうしたいのですか?」
「そりゃあ……なるべく関わりたくないのよ。『青』と。宮廷魔法士となんて一緒にいるところ見られたら……ん? ちょっと待って。これは……使えるわ」
一転してにっこりと微笑み、ラングリーを見るティナ。逆に、ラングリーからは面白がっているような余裕の笑顔が消えた。
「な、何を企んでいらっしゃるのですか?」
「いえ、大したことじゃないのよー。ただ、せっかくここに天下の宮廷魔法士様がいらっしゃるんですからぁ? 宮廷魔法士様だったら、不可能を可能にするぐらい、得意の魔法でちょちょいのちょいよね」
「それはつまり……この雑貨屋の不思議を全て背負えと?」
「よ、ろ、し、く♪」
楽しげに言うティナにぽんっと肩を叩かれ、ラングリーは今まで見せたことのない焦りがにじむ表情で言った。
「待て待て。俺はただの人間だ。そんな無茶言うなら、それなりのものを用意していただかないと」
「それなりのものって何よ。欲をかくとフローラさんにあることないこと言いふらすわよ」
やっぱりそこなんだ、と、ちょっと離れた位置から様子を見守るリームは思った。ラングリーは勘弁してください、とつぶやきながらも、はっきりと言う。
「この雑貨屋の不思議を背負えるぐらいの何か、ですよ。俺はただの人間の魔法士ですからね。万が一『青』に調査された時、ボロがでないようにしておくべきでは?」
「まぁそれはそうね……。いいわよ、考えときましょう」
「約束ですよ? では、お客様も様子をうかがっておられるようですし、さっさと終わらせますか」
そう言って、ラングリーは雑貨屋の店の扉をあけ、姿の見えない客人に声をかけた。
「ようこそ、魔法監視士殿。良い葡萄酒があるぞ。一杯どうだ?」
しばらくの沈黙の後、空気から溶けるように姿をあらわしたのは、鮮やかな青い正装を着たふたりの『青の魔法監視士』だった。


(5)『青』への道

「まさか、ラングリー殿の仕業だったとは……事前にひとこと言っておいていただければ」
「いくら『青』にでも、報告できないことはある。宮廷魔法士はそういう仕事だろ?」
ラングリーが『青』にこの雑貨屋の不思議な商品は全て自分の作ったものだと説明し終えた後、5人はラングリーの持ってきた葡萄酒とツマミをかこんで軽い食事をしていた。
イシュとダナンは元々ラングリーと面識があったらしい。イシュはかなり難解な魔法用語を並べ立ててラングリーにむかっていったが、ラングリーはすらすらと受け答えていた。
そして、何故こんなことをしているのか、という問いに関しては、国家機密だ、と笑顔の一言で終わらせた。『青』もそれには何も言えないらしい。宮廷魔法士はやっぱり便利だわ、とティナは内心思いながらほくほく笑顔だった。
「しかし、嬢ちゃん、ラングリー殿と関わりがあるとは幸運だな」
「えっ!?」
「そうですね。ラングリー殿はこの私が認める数少ない宮廷魔法士です。魔法構成、特に結界魔法における技術は、シェイグエールにも並ぶものは少ないでしょう。お嬢さんがもし『青』を目指すのでしたら、是非その技術を学ぶべきです」
「なんだ、リーム。お前、『青』になりたかったのか?」
「えっ、いやっ、違っ……わないけど、違うっ?!」
一番知られたくない相手に自分の夢をばらされて、リームはしどろもどろになった。宮廷魔法士のオジサンみたいになりたいと思ってるなんて思われてはたまらない。案の定、ラングリーはひとりうんうんと満足げに頷いているではないか。
「そうかそうか、リームも魔法士になりたいかぁ~。魔法の素質は遺伝しないが、もしリームが魔法を学びたいというなら協力は惜しまないぞ。俺は基本的に弟子はとらないんだが、他でもない我が子のぐぅぅっ!?」
「黙ってくださいっ!!!」
余計なことを言おうとしたラングリーの頬を、横から思いっきり押さえて、リームはそれを妨害した。しかし、一瞬遅かったらしい。ダナンはそんなラングリーとリームを見比べて、まさか、とつぶやいた。
「嬢ちゃんが、噂のフローラ姫の?」
「違います! って、噂になってるんですか!?」
『青』にまで知られているとは、一体どの程度まで知れ渡っていることなのか、リームは空恐ろしくなってしまった。いや、自分は関係ないのだけど。噂の子でもなんでもないし。と、心の中で言い訳しながら。
「私もラングリーに魔法を教わるのは良い方法だと思うけどなー」
「ティナまでそんなこと言うんですか!? オジサンに教わるぐらいなら、ひとりで勉強します!!」
「……随分と嫌われているようだな、ラングリー殿」
「反抗期なんだ。なんとかならないもんかな」
ダナンに同情されて、ラングリーは全力で押さえられて赤く跡の残った頬をさすりながら言った。ダナンはふむと考えながら頷く。
「嬢ちゃん、ラングリー殿の弟子になれば、シェイグエールに行けるかもしれんぞ」
「えっ、ど、どういうことですか?」
「ラングリー殿ほどの実力者であれば、シェイグエール魔法院へ弟子を推薦してもおかしくはないということだ。もちろん試験は通常通り行われるが、名の無い魔法士の弟子として行くよりは、長の目にもとまるだろう」
「うっ、で、でもっ……」
シェイグエールへの近道が目の前にある。あこがれの『青』その人から保証された道だ。けど、気に食わない宮廷魔法士に父親然とした教え方をされるのは鳥肌がたつほど嫌だった。
悩むリームを見て、ラングリーはにやりとしながら言った。
「まぁリームにその実力があれば、だがな。リームには悪いが、実力のない者を推薦したとなれば俺の評判が落ちる」
カチンときた。
まだ何も始めてないのに、実力がないと決めつけられている様で。……確かに素質はそれほどないのかもしれない。イシュに言われた言葉が頭の中でよみがえる。でも、まだ努力もしてないのに諦められない。見てもないのに実力がないなんて、言わせない。
「私は……諦めません! ぜったい私をシェイグエール魔法院に推薦させてみせます!」
後からリームはこの時の言葉を後悔することもあったそうだが、そんなことをこの時のリームが知るはずもない。
こうしてリームは、国有数の実力を持つ世界で一番気に食わない宮廷魔法士の弟子になったのだった。


― 続 ―

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