忍者ブログ
散らかった机の上
ライトファンタジー小説になるといいなのネタ帳&落書き帳
Admin / Write
2024/05/19 (Sun) 03:38
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2011/07/05 (Tue) 05:45

どんっ、とリームの目の前に積まれたのは、分厚い4~5冊の本だった。どれも布張りのしっかりした装丁で、1つ1つが片手で持ち運ぶのは大変そうなほどの重さに見える。
「基礎魔法語、記述魔法語、精霊語。発音に特化した教本に、初歩の魔法陣形式。とりあえず、これをすべておぼえろ。文字を知らないと話にならないからな」
「分かりました。この本は持って帰ってもいいんですか?」
「あぁ、良いぞ。ただ、城の蔵書から借りてきたものだから、ちゃんと返すようにな」
宮廷魔法士ラングリーの執務室は、クロムベルク城の中庭に建つ塔の上にあった。塔にはいくつか部屋があるらしいが、リームがいるのはその最も高い位置にある部屋だ。正面に飾り格子のついた窓と、その手前に磨き上げられた大きな木机。左右の本棚には大量の本と巻物、アミュレットのようなもの、そして何故かレースで飾られた人形や淡いピンク色の花飾りなど、似つかわしくないものがところどころに置かれていた。
中央の机以外に、片側の壁沿いに長細い机があり、もともとは小物が置かれていたのだろうか、今は除けられて空いた場所をリームは使っていた。
「じゃ、がんばれよ」
軽く右手をあげてそう言うと、ラングリーは自分の机に戻る。リームは重い魔法語の教本の1冊を手に取り、ぱらぱらと中身を見て、ラングリーに言った。
「あの。こういう勉強はうちでもできますから、ここに来ている間に、もっとこう・・・・・・実践的なこと教えてほしいんですけど」
『青』になるために宮廷魔法士ラングリーのもとで魔法を教わることになって、リームは自分なりに今まで独学で調べてきたことを復習してきた。この腹黒宮廷魔法士のことは今でも気に食わないし、飄々とした笑顔は馬鹿にされているようで腹がたつけれど、その魔法の技術だけは素直に認めている。どんなことを教わるのだろうと、期待していたし不安もあったし、でも『青』になるために絶対負けるもんか!と気合いを入れてきたのだ。
それが、一番に渡されたのが語学の本。そして放置。正直、拍子抜けだった。本を借りられるのはありがたいけれど、せっかくティナに送ってもらってまで来ているのだし、ここでしかできないことをやりたい。
ラングリーは書類らしき紙束から視線をあげ、相変わらずの人を小馬鹿にしたような(とリームには見える)微笑みで言った。
「聞いてなかったのか? 話にならないんだ。ペンの持ち方も知らないやつに、恋文の書き方を教えられないだろう? まず、ペンを持つ。で、字が丁寧に書ける。内容はそれからだ」
「よく分からない例えですけど、自分でできる勉強は、うちでやってきます。ここに来れるのは週に1度くらいなんですから、もっとためになることを教えてください」
「おいおい、それが人にものを教わる態度なのか? 自分の娘じゃなかったら絶対弟子にしないな」
「誰が娘なんですか!」
叫んでしまってから、にやにやと笑っているラングリーを見て、つい乗せられてしまう自分を悔しく思う。本当にこいつは性格が悪い。こっちだって、『青』になるためじゃなかったら、絶っ対に弟子入りなんてしないんだから。
「・・・・・・本を読むだけなら、ここにいる必要ないですね。帰ります。おぼえてきたら、ちゃんと教えてくれるんですね?」
「もちろんだとも。『青』の試験なんて簡単に通れるくらいのことは教えてやるさ。教えてはやるが、身につけられるかどうかはお前次第だ」
「必ず身につけて、『青』になってやります!」
はっきりと断言したリームに、ラングリーは満足げにうなずいた。椅子から立ち上がると、細身の銀の杖と巻物をひとつ持ってリームの机に近づく。
「ティナ・ライヴァートはまだ迎えに来ないだろう? 俺が送ってやろう。本は俺が持つから、ちょっとこれを持っていてくれ。下の部屋に移動するぞ」
渡された巻物と杖を持ち、ラングリーのあとに続いて部屋を出るリーム。銀の杖は細いわりに重量があった。よく見ると表面には細かい呪文が刻まれている。なんとか意味の分かる部分はないかと、目をこらして読んでみたが、何一つ分からなかった。
ひとつ下の階層の部屋は窓がないらしく、扉を開けても薄暗い。ラングリーが入り口横の壁に触れて短い呪文を唱えると、いくつかの魔法の明かりが部屋を照らし、そこには床一面に大きな魔法陣がかかれていた。
「汎用魔法陣だ。あえて記述を未完成にして使用用途を広げている。空間移動の魔法の大部分はそっちの銀の杖に入っている。まぁ内容は分からんだろうが、流れだけでも見ておけ」
ラングリーは魔法陣の中央に魔法語の本を積み置くと、リームをその近くに呼び、杖と巻物を受け取った。ラングリーが呪文を唱えはじめると、床の魔法陣の線に沿って流れるように白い光が広がっていく。呪文が続くにつれて、その光は淡い紫色に変化し、眩しいほどの強さになった。そして、軽い浮遊感とともに、アメジスト色の光の向こう、石造りの部屋の風景が水面のように揺らぎ、別の景色に置き換わる。明るい日差しの下、通りに面した二階建ての店。青地に黄色の文字で書かれた看板。雑貨屋ラヴェル・ヴィアータだ。
「空間移動の魔法が扱えるようになれば、魔法士としてはエリートだな。大貴族や商業組合、神殿、どこからも引く手あまただ。あっという間に城が建てられるほどの稼ぎになるぞ。そこらの魔法士じゃ空船の運転士がせいぜいだからな」
「え? なんでおじさん、一緒に来たんですか? 私、本くらい持てますよ」
リームの疑問に、ラングリーは軽く呆れた溜息をついた。
「お前なぁ、ティナ・ライヴァートを基準に考えるなよ。人を対象にした空間移動の魔法は、術者も一緒に移動するのが当たり前だ。途中で何かあったら取り返しがつかないだろ」
いつもティナに一人で移動させてもらっているリームとしては、いまひとつ納得できなかった。移動が一瞬すぎて、途中で何かあるという事態が想像できない。そうですか、とだけ答えて、重い4~5冊の魔法語教本を両手でかかえた。
ちょうどその時、雑貨屋の入口が開き、噂のティナが顔を出した。
「リーム、ラングリー! どうしたの。早かったのね」
「いえ、ティナ殿。リームが自習ならうちでやりたいと言いましてね。あぁ、あと、これはティナ殿に。約束のやつです」
ラングリーがティナに手渡したのは、執務室から持ってきた巻物だった。ティナは封を解いて初めの方を確認すると、わずかに眉をしかめつつもうなずいた。
「分かった。ちょっと時間がかかるかもしれないけど、考えとく」
「よろしくお願いしますよ。じゃあな、リーム」
ラングリーは、リームとすれ違いざまにぽんぽんと頭をなで、両手が本でふさがったリームは、抵抗のうなり声をあげて心底嫌そうに首をぶんぶんとふった。
PR
Comment
Name
Title
Mail
URL
Comment
Pass   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
  HOME   66  65  64  63  62  61  60  59  57  56  55 
創作メモブログ
ライトファンタジーな小説を書くにあたって、ネタから先が全く進まないので、散らかったメモをまとめておこうと思ったわけです。
にほんブログ村 小説ブログへ
ブログ内検索
最新CM
最新TB
アクセス解析
忍者ポイント広告
忍者ブログ [PR]