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散らかった机の上
ライトファンタジー小説になるといいなのネタ帳&落書き帳
Admin / Write
2024/05/19 (Sun) 08:06
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2011/07/10 (Sun) 06:36
 ラングリーは笑顔で執務室の中に去り扉は閉められ、部屋の外に残されたのはリームとミハレットだけだった。
「よーし。まずは、お前がどれだけ師匠のことを知っているか試験してやろう。弟子になるためにはまず師匠のことを知らなければならないからな」
「だから、ちょっと待ってってば! 私は好きであいつに魔法を教わってるわけじゃないんだから!」
「あ・い・つ・・・・・・? まさか、まさかそれは師匠のことじゃないだろうな!? お、お前は弟子の風上どころか風下にも置けない奴だな!? どういう礼儀作法を教わって育ったんだ!!」
面倒くさい。すごい面倒くさい。なに、こいつ。
リームは期待していた魔法を教えてもらえない苛立ちを抑えきれなかった。
しかし、『青』に推薦してもらうためには、どうしても宮廷魔法士ラングリーの弟子という地位は必要だった。才能がないと断言されたからこそ、それが唯一の『青』への道。
深呼吸。ぐっとお腹に力を入れる。なるべく落ち着いた大人びた声が出るように努めた。
「ごめんなさい。確かに言い方が悪かった。私は『青』に推薦してもらうために、あい・・・・・・宮廷魔法士ラングリーの弟子である必要があるの。二番弟子でも別に文句はないから、認めてくれない?」
「お前、『青』に推薦してもらうために師匠の弟子になりたいのか? 動機が不純だ。そんなことでは、師匠の弟子として認められないな」
こ・い・つ・・・・・・話にならない!
リームはゆらゆらと怒りをまとってミハレットを睨みつけた。ぐっと握ったこぶしがふるふる震える。射殺ろさんばかりの視線に、さすがのミハレットも気圧されたようだ。
「う、うん。まぁ、お前のがんばり次第では、認めてやらんこともないかなー」
「・・・・・・で、何をすればいいわけ・・・・・・」
「えーと、まず、落ち着くんだ。呪い殺しそうな視線で人を見るな。魔法士たるもの、いついかなる時でも冷静沈着でなければならないって師匠が言ってたぞ」
とりあえず、リームは矛を収めた。こいつがラングリーの弟子である事実が変わらないのであれば、一刻も早くこの茶番を終わらせたい。
「なるべく早く終わらせてよね。私はこんなことする暇があったら魔法を習いたいの。あんたもそうじゃないの?」
「お前、本当に口が悪いな・・・・・・オレはあんたじゃなくてミハレットだ。ミハレット・エフォーク。お前はリームと言ったか。家名は?」
「家名なんてあるわけないよ。孤児なんだから」
「・・・・・・そうなのか。それは失礼を」
おそらく無意識だろう、胸に片手をあてて謝罪するミハレットの、憐れみの混ざる視線に苛立ちをおぼえ、リームは軽く唇を噛んでそれを抑えた。ミハレットの言葉遣いと丁寧な所作に貴族の影が見えることに、更に嫌悪感をつのらせる。
私、こいつ、きらい。オジサンの次ぐらいにキライだ。

*              *              *

「まずは、師匠の部屋の掃除だ。師匠のために自ら進んで掃除をするのが、良い弟子というものだ!」
ミハレットに連れてこられたのは、塔の2階にあるラングリーの自室部分だった。ベッドと書き物机とクローゼットしかない部屋で、それなりに片付いていた。
「ふーん。まぁいいけど、掃除するのになんでバケツと雑巾しか持ってないわけ?」
「・・・・・・は? 他に何か必要なのか?」
「掃除するには、まずハタキで上から順にほこりを落として、それから床を掃いて、水拭きはその後でしょう」
「そ、そうか・・・・・・そういえば、女中たちがそういう道具を持っていた気がしないでもないな」
お貴族様はこれだから。リームは肩をすくめて、物置に掃除用具を取りに行った。
神殿付属の孤児院で育ったリームにとって、掃除はお祈りと同じぐらい日常的なもの。てきぱきとこなす様子を、ミハレットは部屋の入り口でぽかーんと見ていた。
ひととおり掃除を終え、道具を片付け終わったリームはミハレットに言った。
「さ、終わったけど、次は何すればいいの?」
「すごいなぁ・・・・・・リームは女中見習いなのか? まぁ城に入れるんだから、そうなんだろうな」
「いや、掃除ぐらい貴族じゃなければ誰でもできるでしょ。私は雑貨屋で働いてるの。ミハレットみたいに毎日暇してる貴族ならいいんでしょーけど、私はわざわざお休みもらってここに来てるわけ。本当に早く魔法の勉強したいんだからね!」
「オレは家の名前は捨てたんだから、もう貴族じゃないぞ。魔法士として生きていくんだ。そもそも、魔法の力は平等だ。貴族も庶民もない」
「はいはい。ならきっと、住むところも食べ物も自分で手に入れてるんでしょうね?」
「うっ・・・・・・いや、それは、ちょっと家の名前で借りているだけだ。いずれ魔法士としての稼ぎで返すんだ」
しどろもどろなミハレットに、リームはため息をついた。
「はい、次ね、次。ていうか、もう弟子として認めてくれる?」
「いや、まだだ。世界一の師匠の弟子ならば、世界一の弟子であることを目指さなければ! 次は、差し入れだ。調理場に行くぞ!」
ラングリーに関わることだけ、不必要なほどやる気に満ち溢れるミハレット。こんな調子で付きまとわれたから、弟子にせざるを得なかったのだろうか。本当に面倒くさいやつだった。

*              *             *

クロムベルク城の調理場は広間のように大きく、何十人もの調理師が働いている。王様や王妃様のお食事はもちろん、定期的に開かれる晩餐会の食事や、大臣や神官、近衛兵、宮廷魔法士など城に住み込みで働いているものたちの食事も作っていた。
ミハレットは城の中では有名らしい。とても貴族が通らないような通用口を通っていても、使用人たちは会釈をするばかりだ。慣れた様子で調理場に入っていくと、ひとりの体格の良い調理師が声をかけてきた。
「おや、ミハレット坊ちゃん。今日もラングリー様への差し入れですかな?」
「あぁ、そうなんだ。クロッツ菓子はあるかな?」
「それが、あいにく今、きらしておりましてねぇ。まぁ、材料はありますから、1刻ほどでできあがります。お部屋ででもお待ちいただければ、届けさせましょう」
「いや、取りにくるよ。よろしくな」
「・・・・・・え? 作るんじゃないの?」
先ほどの掃除のように、自分でやるのかとばかり思っていたリームは、ミハレットのうしろでつぶやいた。ミハレットが軽く驚いた様子でふりかえる。
「リーム、もしかして料理もできるのか? すごいな・・・・・・なぁ、ドルマー、オレにも作れるかな?」
聞かれた調理師は、困った顔をして頭をかいた。
「いやぁ・・・・・・それほど難しくはないですがね。坊ちゃんに火傷でもされたら、あっしらが怒られますからねぇ」
「じゃあ、私だけやればいいですね。ミハレット坊ちゃんはお部屋ででもお待ちいただければお届けしますよ?」
リームがからかう調子で言うと、ミハレットはむっとした表情で首をふった。
「いやっ、オレもやる! 一番弟子として、負けれいられないっ」
こうして何人もの調理師に見守られながら、リームとミハレットはクロッツ菓子を作り始めた。
ミハレットの不器用さは、目を見張るものがあった。卵をかき混ぜるだけでこぼしそうになる。リンゴを切る時は、どうかそれだけは代わりにやらせてくださいというドルマーに断固として譲らずに挑戦、予想通り指を切りそうになり、見守る調理師一同が息をのんだ。
「まったく、お嬢ちゃんが変なことを言いださなきゃなぁ・・・・・・それにしても、お嬢ちゃん見ない顔だけど、新人かい? 随分坊ちゃんと仲が良いように見えるが」
ミハレットが四苦八苦している間、手際良く生地作りを終わらせていたリームに、ドルマーが言った。
「まさか!仲良くなんてないですよ。今日会ったばかりです。私、宮廷魔法士の弟子になりました、リームといいます」
「ほほぉ、そりゃあまた。ラングリー様が新しい弟子をとるとはね。坊ちゃんが弟子になると言いだしたときは、それはもう大変だったさ。ラングリー様は貴族にも容赦しないから、いつ坊ちゃんがやられるかと心配したもんだが、さすがに子供には手を出しづらかったようだねぇ。とうとう折れたのが1年くらい前かな。お嬢ちゃんはいったいどうやって弟子になったんだい?」
「まぁ・・・・・・なりゆきで」
フローラ姫が自分を引き取りたいなんて言わなければ、ラングリーと出会うこともなかっただろうし、そうだとしたら『青』のひとりから直々に才能がないと断言された自分が、『青』を目指すのは途方もない話だったろう。
本当はフローラ姫やラングリーに頼るのは嫌だったし、自分ひとりの力でなんとかしたい気持ちはあった。しかし、どうしても『青になるのは不可能でしょう』という言葉が頭から離れない。そして『ラングリーの弟子になれば、青になれるかもしれない』という言葉が。憧れの青の魔法監視士から言われた言葉は、重い。
自分の矜持と夢とを天秤にかけて、リームは夢を選んだのだった。


リンゴを混ぜ込んだ焼き菓子『クロッツ菓子』は、リームの作ったものはそれなりに形になっていたが、ミハレットのものはぼろぼろと崩れて菓子の形をなしていなかった。
「なんでこうなるんだ・・・・・・? リームと何が違うんだ?」
中庭の塔に戻る道すがら、ミハレットは自分の作った菓子を見てため息をついた。
「でも、味はそんなに違わなかったし、いいんじゃない?」
「いやっ、師匠に食べていただくんだったら、ちゃんとしたものでないと! とりあえず、今日はリームのだけ渡してくれ。次こそはちゃんと作るからな」
ふと、塔の入口の前に、人が立っているのが見えた。金髪を高い位置でひとつにまとめ、動きやすい普段着を着た若い女性――ティナだ。リームははっと息をのんだ。いつの間にか予定の時間を過ぎていたのだ。どれくらい待たせてしまっただろう。リームは塔にむかって駆けだした。
「ティナ! ごめんなさい。うっかりしてました。待ちましたか?」
そんなリームを、ティナは笑顔で迎える。
「ううん、全然大丈夫よ。ちょっとラングリーに用事もあったし、問題ないわ。そっちが例のミハレットくん?」
ラングリーから話を聞いたのだろう、追いついたミハレットを見てティナが言う。ミハレットのほうもリームに聞いた。
「リーム、この人は?」
「私が働いている雑貨屋の店主さんだよ。いつも迎えに来てもらってるの」
「初めまして、ミハレットくん。ティナ・ライヴァートよ」
「初めまして。ミハレット・エフォークだ。どうぞお見知りおきを」
片手を胸にあてて一礼するミハレットに違和感を抱かないらしいティナは、やはりある程度貴族との付き合いに慣れているようだった。
「どうする? リーム、もう帰る? ラングリーに挨拶してからにする?」
「挨拶は別にいいんですけど、これを届けなきゃいけないんです。あと、魔法語の本も借りて帰りたいですし」
「うん。じゃあ行こうか」
3人は塔をあがり、執務室へとやってきた。ティナがノックをして、扉をあける。ラングリーは正面の机に座り、何やら真剣な顔で巻物を見ていた。3人を見ると、ふといつもの笑顔を見せたが、目が笑っていない、とリームは思った。
「おかえり、リーム、ミハレット。どうだ? 試練は乗り越えられそうか?」
「さすが師匠が選んだだけあって、見込みはあると思います。ですが! まだ正式に認めるわけにはいきません!」
あれだけやって、まだなの? リームは隣からミハレットを睨みつけたが、ミハレットは気づいていない様子だった。
「クロッツ菓子、作ってきましたよ。ミハレットがいつも差し入れしてるそうですね? どうぞ」
「おお、悪いな。なんだ、リームが自分で作ったのか? これはフローラにやったら大喜びだな。持っていってやらないと」
リームが渡した袋から菓子を取り出して見ながら、満面の笑みで言うラングリー。その言葉を、ミハレットは不思議に思ったようだ。
「フローラ様に? フローラ様はそれほどクロッツ菓子がお好きでしたでしょうか」
いけない、バレる。リームは咄嗟に思い、その隠したい事柄を自分がいまだ認めてないことには気がつかず、声をあげた。
「それじゃ、私は帰りますね! 魔法語の本、借りていきます。さぁ、ティナ、帰りましょう」
横の机にまとめて置いてあった魔法語の本をかかえ、ティナに言う。ティナはそんなリームの懸念に気付いたのだろう、仕方がないわねというような笑みを浮かべた。
「またね、ラングリー。ミハレットくん」
ふたりが部屋を出る直前、ラングリーが口を開いた。
「ティナ・ライヴァート殿。貴方は、これを俺に渡す意味を、本当に分かっているのですか?」
ラングリーの表情に、いつもの飄々とした笑顔はない。真っ直ぐにティナを見ていた。一方のティナは、けろっとした笑みで小首をかしげる。
「意味も何も、あなたが必要だって言ったんじゃない。私は、あなたがそれを持つことに、何か問題があるとは思わない」
「貴方は俺を信用しすぎているのか、見くびりすぎているのか、どちらかですね」
「どちらかだったら何か問題あるの? 私は、そうは思わない」
にっこり笑うティナとその隣で目をきょろきょろさせながら様子を見ていたリームが、淡い紫色の光に包まれた。一瞬で強さを増した光は突然ふっと消え、その後にはすでにふたりの姿はなかった。
「・・・・・・師匠、あの人は、一体・・・・・・?」
ミハレットが茫然と尋ねる。ラングリーは長く息をつき、髪をかきあげた。
「気にするな。世界は広い。知らない方がいいことも、世の中にはあるってことだ」




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