忍者ブログ
散らかった机の上
ライトファンタジー小説になるといいなのネタ帳&落書き帳
Admin / Write
2024/05/19 (Sun) 06:03
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2011/07/10 (Sun) 03:05
 美しく整えられた花壇と石畳の小道、まだ日が真上に昇り切っていない柔らかな陽射しの中、さわさわと風だけが通り抜ける。
そんな晩夏のクロムベルク城の中庭に、紫色の光があらわれた。その光が薄れ、光の中からシルエットが見えてくる。灰色のワンピースを着て分厚い本を何冊も持った、肩までの黒髪の少女――リームだ。
約1カ月ぶりのクロムベルク城。中庭には、石造りの塔が建っていた。宮廷魔法士ラングリーの執務室や居住場所がある塔だ。
やっと今日から本格的に魔法を教えてもらえる。ラングリーに会うのは嫌だけれど、魔法を教えてもらえるのは楽しみにしていた。
魔法語を勉強していて、実際自分でも魔法を使ってみようと試したのだが、滅多にうまくはいかなかった。<小さき光>ぐらいの基本的な魔法から、ちょっとでも他の要素を足そうとすると、とたんに発動しなくなる。呪文の発音はティナにも確認してもらって間違いなく正しいはずなのに。やはりなんらかのコツがいるようだった。
塔の入口の大きな木戸を背中で押し開けるようにして中に入る。1階はシンプルな応接間のような部屋になっていた。今は誰もいない。入口のすぐ横から、壁に沿ってらせん階段があり、上の階へと続いている。
重い本を両手にかかえて最上階まで上がるのは少々骨が折れるが、文句は言っていられない。リームはよしっと心の中で気合いを入れて、石造りの階段をのぼりはじめた。

*             *             *

軽く息をあげながら、最上階にたどり着いたリームは、ラングリーの執務室の扉の前で、一応礼儀上ノックをしなければと本を一旦床に置こうとした。
と、その時突然、扉が開いた。外開きの扉は、当然目の前にいたリームにぶつかりそうになる。
「っきゃ!?」
「おおっと、すまない!」
よろけたリームを支えたのは、しかし、ラングリーではなかった。
背の高さはリームよりわずかに高い程度、おそらく年齢もそう変わるまい。肩より短い蜂蜜色の髪を外にはねさせ、瞳は濃い青色。そして、どこかで見たような黒いローブを着た少年だった。
「大丈夫か? 重そうな本だな。師匠に頼まれたのか。あいにく、今師匠は出かけているんだ。もうそろそろ帰ってくると思うんだが・・・・・・本は渡しておくよ。ありがとう」
そう言いながら、リームの抱えている本を受け取る少年。リームはあっけにとられてしまって咄嗟に反応できなかったが、すぐに状況を飲みこんだ。まるであつらえたように同じローブを着ていればおのずと答えは分かってくる。師匠とは、ラングリーのこと。弟子はとらないと言っていたが、いるではないか。
「・・・・・・? どうした? 何か他に言いつかっていることがあるのか?」
魔法語教本をテーブルに置いた少年が、リームに聞く。間違いなくこの少年は、リームのことを小間使いだと思っているのだろう。まぁ、慣れてるけどね・・・・・・リームは遠い目をしながら答えた。
「あの、私は本を届けにきたんじゃないの。私は魔法を教わりにきてて・・・・・・」
リームが言い終わる前に、少年は納得の表情でうんうんと大きくうなずきながら言った。
「あぁ、なるほど。うん、分かる、師匠に憧れるのはよーく分かるぞ。師匠は世界で一番、聡明で強力で独創的な素晴らしい魔法使いだからな! しかし残念なことに、師匠はそう簡単には弟子をおとりにならないんだ。ここまで来る行動力は認めるが、弟子になるのは無理だろう。諦めた方がいい」
「いや、そーじゃなくて・・・・・・」
その時、階段から足音が聞こえ、リームが振り向くと、いつも変わらぬ飄々とした笑顔のラングリーがあがってくるところだった。
「おう、お前たち。そんな入口につったって、何をやっているんだ?」
部屋の中の少年もラングリーに気付き、ぱっと笑顔になる。なかなか華やかな見た目の少年だ。黒いローブよりも銀糸の刺繍のはいった豪華な服のほうが似合うだろう。
「師匠! おかえりなさい! この子が本を運んできてくれたのですが、師匠が頼んだものですか?」
「あぁ、そういえば、お前たち顔を合わせるのは初めてだったなぁ」
そう言うラングリーが、一瞬いたずら小僧のような無邪気な笑みを浮かべたのを、リームは見逃さなかった。こいつ、何か企んでる。あるいは、面白がっている。警戒するリームをよそに、ラングリーは明るい笑顔で続けた。
「リーム、こいつはミハレット。まぁ一応、俺の押しかけ弟子みたいなもんだ。ミハレット、こいつはリーム。新しい弟子だ。ふたりとも仲良くするんだぞ」
予想がついていたリームはそれほど驚かなかったが、飛び上るほど驚いて大声をあげたのは少年――ミハレットのほうだった。
「あああ、新しい弟子ぃっ!? ししし師匠っ、どういうことですかっ!? オレは、あんなに! あーんなに苦労して弟子にしていただいたのにっ!! 急にひょいと来て弟子になれるなんて、おかしいですっ!!」
「俺がいつ誰を弟子にしようと、俺の勝手だろう?」
涼しげに言うラングリーに、ミハレットは頭をかかえて身をよじる。あまりの興奮具合に、リームは思わず身を引いていた。
「それは! そうですが! ――あああ、納得できませんっ!! 師匠っ!! オレは一番弟子としてっ!!
この子が師匠の弟子にふさわしいかどうか、試させていただきますっ!!」
「んー、まぁ、お前ならそう言うとおもったさ。というわけだ、リーム。こいつを納得させるのは大変だぞ? がんばれよ」
ラングリーに満面の笑みでぽんと肩を叩かれ、リームはうろたえた。
「えっ、ちょ、ちょっと待ってください! 今日こそは魔法を教えてくれるって、言ってたじゃないですかっ!」
「こいつにギャーギャーわめかれながらか? それは無理だろう。ま、何事にも試練はつきものだからな」
その笑顔は、明らかに状況を楽しんでいる表情だった。こいつ・・・・・・またこうなることを分かっていて黙っていたのだ。性根が腐っている。この腹黒中年魔法士がっ。
リームの呪いの視線にも、ラングリーはどこ吹く風といったような笑顔であった。


PR
Comment
Name
Title
Mail
URL
Comment
Pass   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
  HOME   68  67  66  65  64  63  62  61  60  59  57 
創作メモブログ
ライトファンタジーな小説を書くにあたって、ネタから先が全く進まないので、散らかったメモをまとめておこうと思ったわけです。
にほんブログ村 小説ブログへ
ブログ内検索
最新CM
最新TB
アクセス解析
忍者ポイント広告
忍者ブログ [PR]